ひとかきの力
【6.25】
今、理科室にはメダカがあふれている。観察用に大人のメダカが40匹。その子供が10匹。
おかげで僕の最近の日課は水槽をのぞくことから始まる。「卵を産んでないだろうか」と。
メダカは、話によると、体長の1/4ぐらいまでは食べちゃうらしい。ということは例にもれず、卵も子メダカも「愛すべき次世代の命」ではなく、「生きるための糧」となる。物事というのは捕らえ方の問題なのだ。
だから卵があったら水槽から取り出し、ビーカーに移してやる。
メダカは1回に10個ほど卵を産み、うちの場合は40匹もいるから毎朝1匹は卵をつけている。単純計算すると10日もすれば卵は100個となり大変なことになるのだが、中には無精卵だったりカビがはえたりしてダメになるものもあるから、そう単純にはいかない。
それでもこれだけたくさん産むのだから、動物愛護精神の育成も兼ねて子供達に分けてあげる。現在は5年生に配れるだけの卵を確保している最中なのだが、随分前に産み落とされた卵は、もう立派に子メダカとしての生を謳歌している。
子メダカ用の小さな水槽で。
親メダカの水槽は理科室に置いてあるのだが、子メダカの水槽は僕の部屋「理科準備室」にある。こちらはまだエサもそれほど食べないので放っておいてもいいのだが、ついついのぞいてしまう。「元気かなぁ」と。
体長が1cmにも満たない子メダカは目を凝らさないと見えてこないが、いったん見つけると見失うことはない。
いや、正確には見失わないのではない。
見失えないのだ。
親メダカが尾ひれのひとかきで得る推進力を、子メダカは何往復も尾ひれを交互させることで、やっとこさ手に入れる。ス〜イス〜イと泳ぐ親メダカの優雅さと対照的に、全身を震わせるように尾を振りしぼる子メダカ。そのあまりの一生懸命な姿に、僕は、目が離せなくなる。
子メダカのひとかきの力は微弱である。
でも、そのひとかきは偉大だ。