【ストーブの2】
ストーブを出した。
うちのストーブは灯油入れて火つけるやつ。そうそうそれそれ想像している通り。ストーブの上にやかんをかけておけるあれね。
あのストーブにもちろん灯油が必要なわけで、僕は後部座席にポリタンクを積んでガソリンスタンドへと向かった。辺りはもうすっかり暗くなり、家路をいそぐ自動車のテールランプがせわしくちらついていた。。。
夕方から夜にかけての時間帯。この時間帯は不思議と意識が混濁しているように思える。何もかもが曖昧でもっさりとしている。そんな気がするのだ。
例に漏れず僕の脳も、振り子のように揺らめくテールランプの光に誘われるように、混濁の世界へといざなわれていった。その時ふと頭の中には、去年のことが思い出されていた‥・・
1年前のこの日。それはやはり寒かった。まだ家には弟も居らず、人が多いと自然と暖かくなる、いわゆる人熱に頼ることはもちろん不可能。何せこの広い一軒家に僕は独りなのだ。
あまりの寒さに辛抱たまらなくなった僕は、暖を求め車庫をさまよった。そして、これはいつ頃からだろうか、とにかく随分昔からある薄汚れた石油ストーブを引っぱり出してきたのだ。
さて、引っぱり出したはいいものの、石油ストーブだからもちろん燃料が必要なわけで、その燃料となる灯油を仕入れなければ使うことはできないわけで、僕は寒空の下をしぶしぶ出かけたわけである。
しぶしぶ? そういえば、外に出るのが嫌な程やけに寒かったのを記憶している。でも、何でだろう? う〜ん‥とよくよく考えてみた。
そうだ!
あの頃は確か車が無かった。あの夏起こった事件がもとで僕には原付きしかなかったのだ。だから原付きの足下にポリタンクを抱え、スタンドまで通った記憶がゆっくりと思い出されてきた。
名瀬の街の暗く灰色な空。
寒かったな、あの頃は。