【赤トンボ】
そう、この風だ。
夜、洗濯物を干しながら肌に触れる風に思いをはせた。。。
夏の終わり。赤トンボの飛び交う季節。稲穂は黄金色に身を染め頭を垂れる。
夕刻。河原に出かける。そこは暖色の世界。沈みゆく日が辺りを穏やかに染め、羽を暖かく輝かせながら赤トンボが無数に飛び交う。遠くからヒグラシの声が聞こえてくる。手を伸ばせば目の前を流れる時間の帯は簡単につかめそうだ。
そう、時間までもが無防備に漂うひととき。そして静かに夜が訪れる。
早朝。秋の朝は輝きに満ちている。水気をたっぷりと含んだ風は、夜の間に草木に潤いを与え、朝の光がそれを輝かせる。その「露」は、陽の登らない早い時間にはまだ凍っている。冷え込み。秋の朝は想像以上に冷たく肌を差す。僕が変温動物だったならきっとまだ動けないくらいに。
そう、動けない。秋の朝の草木の影には、露と一緒に凍てついている赤トンボの姿がある。彼らは変温動物。だから動きたくても動けないのだ。辺りが薄らと明るくなっても動けない彼ら。太陽が直接彼らの体を焼き氷を溶かすまで彼らは動けない。
しばらくするとパタパタとあちこちで羽音がし始める。露を払う音。カセを外された赤トンボは次から次へと飛び立ち、再び秋の稲穂の上へと舞い上がる。
赤トンボの飛び交う季節。