【忠犬チビ公】
弟の体育祭に合わせて両親がやってきた。もちろん愛犬チビも一緒だ。
チビは物覚えがいい。仲良くなった人間のことは決して忘れない。そして、それが家族ならなおさらだ。
普段は離れて暮らしていても“ちび”と呼ぶ耳慣れた声が聞こえれば、すかさず首を持ち上げキョロキョロと辺りを見回す。そして私の姿を見つけるやいなや、これでもか!というほど尻尾を振り、飛びかからんばかりの勢いでまっしぐらに走ってくるのだ。
さすがは愛犬チビ。愛らしくてたまらない。
僕ら家族はもちろんチビを愛している。が、彼女の家族に対する愛情に比べたら大したことはないのかもしれない。それほど彼女の行動には無言のメッセージが溢れている。
夕方。ちょっと持て余した時間をつぶしに何げに本屋へ行ってみた。前回同様チビは“お留守番”だったわけだが、今回は家に彼女の大好きな母も居れば父も居た。独りっきりでは無いから寂しいことも無いだろう。
帰ってきて驚いた。角を曲ってすぐ目に入った玄関の灯りの中、床にベタッと座り込み外を見つめる灰色の塊があった。まるで誰かの帰りを待っているかのように灰色の塊は微動だにしない。僕が玄関の網戸を開けると同時に、灰色の塊は今ちょうど命を吹き込まれたかのように動きだし飛びついてきた。
「まさかずっと玄関に居たわけじゃないよね?」と尋ねる僕に母は言った。「ずっと居たのよ。忠犬チビ公よ」
まったくその通りの話である。