【微かな秋】

よく晴れた一日だった。ただ、いつもと違っていたのは、午後を過ぎても風が冷たさを失わなかったということ。秋の匂いがする。

ちょっと背伸びをして--といっても子供から見た大人という背伸びでは無く、夏から見た秋という背伸び--長袖のシャツに手を通してみる。こんな涼しい風が吹き始めたら一足先に秋の気分に浸っておくのも悪く無い。

山は緑がその生命力を失わず、太陽は陽射しにその輝きを失ってはいない。それとなく見わたしても何も変化は無い。昨日までと同じ景観がそこにあり、昨日までと同じ夏がそこにある。

違うのは、この風の匂いだけなのだ。風に含まれる微かな秋の雰囲気だけなのだ。

ここは常緑の島。目に見える秋は決してやってきはしない。

微かな手掛かりに秋を感じ、無理矢理にでも体の何処かに潜む秋を見つけださなくてはならないのだ。そうしないと秋なんてものはいつの間にかいなくなっちまう。

ここは常緑の島。

目に見える秋は決してやってきはしないのだから。


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