【0.5の世界】

ある日突然、メガネが失くなった。もちろん家中探した。が、結局見つからず。

ま、普段はコンタクトなので深く落ち込むことはなかったが。たかがメガネされどメガネ。辛い生活が始まった。

私がメガネをかけるのは、コンタクトを付ける前と外した後。すなわち起き抜けと就寝前。それは私にとって最もパソコンに親しむ時間帯でもあった。

私が裸眼で線の境を明確に判断できるのは、眼前5cmまで。それ以上離れると、周囲はたちまち互いの境界を失い溶け合っていく。それでも、キーボードへの打ち込みは弱ブラインドタッチで何とかなると考えていた。しかし甘かった。今の私には画面もブラインドだったのだ。

かくしてメガネ無しの生活は、予想以上に辛く忙しいものに‥。

優雅にキーを叩きつつ、変換の度に体は前後運動。画面に顔をひっつけなければ何も見えないのだ。「もうこんな生活嫌!」

とうとう私はメガネを新調することを決意した。

あのメガネを買ったのはもう5年も前の話。もともと部屋用として作ったため0.5の世界しか見えなかったが、それも今では時間の経過とともに0.1にまで減っていた。そう、そろそろ新調せねばならない時期ではあったのだ。いい機会だし、私は決心の緩まぬうちにメガネ店を訪れた。そして再び0.5しか世界を描かない部屋用のメガネを手に入れた。

その夜、さっそく新しいメガネに顔を通すと、眼前には恐ろしいほどクッキリとした世界が広がった。通し慣れた過去の0.5のメガネでは考えられないほど明確な境界線の世界。それは私にとって「見え過ぎる」と言ってもいいほどの衝撃であった。

たかがメガネされどメガネ。0.5の世界がこんなに凄いとは‥。

5年間における視力の低下を数値で実証された気分だった。


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