3/5「奄美に雪が降った日」
3月5日。その日はとても寒い日だった。僕は寒いのは苦手だが、朝から知人を案内して島巡りへ。「なんでこんな時に旅にくるんだよ」と寒さを笑い飛ばしながら、それでも可能な限りいろんなところをまわった。
冷たい雨と風の中あちこちまわって疲れていたが、東京行きの最終便に送り届けた後、そのまま湯湾岳へ。もしかしたら雪が降るかもしれない。そんな気がして、どうしても行かずにはいられなかった。
「奄美に降る雪」に憧れていた僕は、実はこれまでも何度か湯湾岳へ行ったことがある。だが、ドバーッと降るアラレがいいとこで、雨さえ降らないこともあった。山の上できれいな星空を見ながら、どんなに寒くても満天の星じゃなぁとつぶやいたものだ。だから今回も「もしかして」とは思ったが「ま、三月だし無理かな」とも思っていた。
そして半信半疑のまま到着した湯湾岳展望広場。そこに舞い落ちてきた白い粒にも、まだ雪への確信は持てないままだった。
宇検村側の湯湾岳展望公園に着くと、辺りに白いものが舞っているのが見えた。外に出て確認しようとするが、風が強くてはっきりと見ることができない。写真に撮ると、同じだけキラキラ降っていても白くはっきり写る時とそうでない時があった。雨はほぼ透明だからあまり光を反射しないとしても、この白く光るものはなんだろう。やっぱり雪なのだろうか。ただ、風が強い上に降ってくる量もまばらだったのでじっくり見つめて確認するに至らず。
このままここで待ってもいいが場所を変えれば状況も変わるかもしれないと思い、湯湾岳をはさんで反対側の大和村側の登山口に向かうことにした。
林道を走りだしてしばらくすると、車のフロントガラスに当たっていたアラレ混じりの雨の音がしなくなった。外に出て見上げると、空から白いものがたくさん落ちてきた。
手をかざして手のひらに落ちてきた粒を見ると、それが雨でもアラレでもないことがわかった。風に舞うように流されながら落ちてくる白いものに、やっと雪だと確信がもてた。
まさか本当に降るとはなぁ・・。ワクワクと高ぶる心の中で、ジーンと熱いものも同時に感こみあげてきた。目に涙をにじませながら写真を撮ったのは、生まれて初めてのことだった。
奄美に降る雪だから、少しはもったいなさそうに降るのかなと思っていたが、風とともにまるで吹雪のように降ってきたから驚いた。粉のような小さな雪が空から無数に落ちてくる。こんなに降っていいのか?と思いつつも、流れる雪を見ながら、いつもと違う雪降る林道ドライブを味わった。
さっき降った雪の勢いは本当にすごかったようで、到着した大和村側の湯湾岳登山口には階段に雪が降り積もっていた。降雪だけでなく積雪までも!!。この状況には感動というより絶句し、これならたとえこの後雪が降らなくても残雪を見ることはできると確信したので両親を呼ぶことにした。だが、携帯のアンテナは3本もたってるのに電話がつながってくれない。雪降る中をあちこち歩きながら電話したが、結局つながらなかったのであきらめて林道を再び戻ることにした。
電波がつながるところまで戻って電話をかけ、最小限の連絡だけしてまた現場に戻った。
両親を待っている間は雪もあまり降らず、時折空には星も見えた。強い風に流されて雲がやってきては晴れ、その度に雪がちらついては消えていった。そして草むらや手すりに積もっていた雪も少しずつとけていった。
待つこと約2時間。ようやく名瀬から両親が到着した。同じ頃にやってきた若者たち(大学生?)が、登山口のとけかけていた雪を集めて雪だるまを作った。それと一緒に記念撮影をした。
興奮もおさまり気持ちもゆるんだのか、私は急に寒さを感じるようになった。腕時計で計った気温は0度だったので、実質寒いことは寒かった。両親も雪を見たことだし、ホームページで早くみんなに知らせたい気持ちもあり、家路に着くことにした。
帰り道。フォレストポリスを出て大金久の近くに来た頃、白くて丸い大きめの粒が降ってきた。雪?というかアラレを白くしたようなもの。道路に落ちては風に吹かれてコロコロと転がっていた。この高さでもこんなものが降るのだから今日は本当に寒いんだろうなと思った。
家までのドライブ、長い道のりに記憶がうすれそうになったが、帰宅して撮影した写真を確認すると再び降りそそぐ雪の実感がよみがえってきた。
温暖化だし、もう奄美に雪が降ることはないのかもしれないとあきらめかけていたけど、本当に奄美に雪は降ってきた。小さい頃の記憶の片隅にこびりついていた島に降る雪の写真。いつか見たいと思っていたあの光景は、いったいどこで見たものだろう。とにもかくにも自分の目でずっとずっと見たくてたまらなかったものを、まさか本当に見ることができるとは。。
島に降る雪は、104年ぶりと言われる。だが今回も測候所の職員が直接見てないので公式記録にはならない。でも僕は正直、公式とかなんとかは全然かまわない。自分のこの目でただ見たかっただけなのだから。