3/1「島の春」
ひととき島をにぎわした桜の季節も終わり、赤く彩られた桜並木は新緑の装いへと衣替えをすませた。もうすっかり葉桜の頃である。
桜は散る姿も美しいが、花びらをヒラヒラと舞わせるのではなく花ごとポトリの緋寒桜に桜吹雪の楽しみはない。だが、見事な満開を迎えた樹の下にはびっしりと赤い粒が広がる。相変わらず色濃い緋色の花は、苔むした緑の上で落ちてもなお鮮烈な彩りを放っていた。
一般的に「桜」からイメージされる季節は「春」だ。別れと出会いの季節を彩る花、「桜」。桜が日本人の心に大きく響くのも、節目とのつながりがあってこそだろう。が、奄美の場合は桜=春とはならない。気候的にも気持ち的にも春とは遠い季節に桜は咲き散ってゆく。そして、その後にやっと春はやってくるのだ。
花を愛でながら春を感じ、別れと出会いに乾杯!。そういう花見の慣習が島にないのも仕方のないこと。社会の節目と桜が重ならないこの島では、本土で感じられるような桜への盛り上がりはない。進学で初めて本州の桜を見た時、「ああ、これが・・」と受けた感動は今でもまだ心の中に残っている。日本人が桜を愛でる理由がやっとわかった春だった。
盛大な花景色には彩られない島の春だが、花に負けないパワーは十分にある。春になるといつも感じるとてつもない勢い。それは山から発せられてくる。
常緑でいつも深い緑色をたたえる奄美の山々。見慣れた色彩はいつも変わらず平凡にさえ映る。だが、そんな静かな山に広がる春の勢いは実にすさまじい。
モリモリと大きく盛り上がり、目の前に迫ってくる山。それはまるで森が意志を持ち、島をのみ込もうとするかのようだ。二月の後半から現れはじめた新緑が少しずつ山に広がり、最盛期を迎えるのは三月後半から四月。森の勢いと生命力に満ちあふれた島の春。
大きく大きく盛り上がった山が、奄美の別れと出会いの季節を彩る。