10/6「空に近い場所へ」
もうすっかり秋である。
8月の終わりから9月の初めにかけて訪れた大きな二つの台風。それらが通り過ぎた後、吹く風は急に秋の気配をおびはじめた。台風は、やってくる時はムンムンとした南風を。そして通り過ぎた後はヒエビエとした北風を残していく。今年は夏休みの終わりに台風が集中したので、夏に一気に幕が引き下ろされた気がした。「はい、おしまい。さ、どうぞ」とむりやり秋が運ばれてきた。そんな気分だった。
それでもまだ9月はほんのりと夏の匂いが残り、海で泳ぐのも気持ち良かったし汗ばむ時もあった。あんなに集中してやってきた台風も不思議なことに長期休暇に入り、9月の中頃は実に静かで安定した空模様だった。でもやっぱりまだまだ台風シーズンは終わりじゃない。9月終盤、久々に発生した台風が奄美の近くを通っていった。そしてまた北風を残し、涼しい風はヒンヤリに変わった。もうすっかり秋である。
以前は「奄美に秋はあるのか?」と紅葉を基準に考え、奄美の秋の乏しさを嘆いていた。今は、あの頃の自分が恥ずかしいほどにあふれる秋を奄美に感じる。肌をやさしくなでるひんやりとした風。あの熱気がまぼろしであったかのようにすっかり冷めた空気。上へ上へと勢いのよかった雲も大人しくなり、横へ横へと羊のように群れをなして空を流れていく。太陽は朝寝坊をはじめ、夕方も早く帰るようになった。輝きにもどことなく元気がない。夏にはしゃぎすぎちゃたから、ちょっとゆっくりしたいな。そんな雰囲気が漂っている。見るもの全てを焼き尽くしてしまいそうだったあの威勢はどこへやら。ずいぶんと聞き分けのある優しい顔になったものだ。
変化は空だけじゃない。僕の方も少し。あんなに愛したアイスカフェオレが今ではすっかり。したたり落ちるレギュラーコーヒーの温もりがやけに心地いい。そういえばオリンピックがあったっけ。夏の流行歌は消え失せ、スピーカーから流れるのはノラ・ジョーンズの聞き慣れた歌声。
「もうすっかり秋だなぁ」と、つぶやかずにはいられない。
空気が冷たくなってくると、山へ登りたくなる。山へというより高い所へ登りたくなる。夏の間、海のことしか考えられなかったのが嘘のように、しごく当然のように足が山へと向かう。どうしてそんなに高い所へ登りたくなるのか。その理由は、実は意外とシンプルだったりする。ただ単に雲に近付きたいだけなのだ。
夏の浜辺でわき上がる雲を見上げた。山の向こうに見えた入道雲を追いかけていくと、いつも海にたどりついた。さすがに海の上は走っていけなかった。だから浜辺で雲を見ていた。秋の空を見上げると雲がすぐそばを流れているように感じる。「天高く馬肥ゆる秋」の意味は忘れてしまったが、天が高く見えるのは雲が近いからではないだろうか。ふと最近そう思う。そういうわけで高い所へ登りたくなる。羊のように空を渡るあの雲に近付きたくて。
奄美で一番高い山は湯湾岳。山がちな奄美は南へ行くほど島がモリモリと盛り上がり、その頂点に湯湾岳が位置する。奄美で一番高い所へ登るならココをおいて他にはない。ただ、高いといっても森林限界より遥かに低い湯湾岳は頂上付近も木々が茂る。雲に近付くには登り過ぎてはいけない。車で簡単に行けちゃう中腹の展望台あたりがちょうどいい。
展望台へは、宇検村の湯湾から。アスファルトの道路を登っていくと意外とあっさりたどりつく。駐車場に車を止め、左手の小高い森を登る。セメント道なので比較的安全だが、懐中電灯を持っていくと帰りが安心。せっかく来たらきっと夕陽を見たくなってしまうだろうから。
防寒着は忘れずに。保温ポットに温かい紅茶やコーヒーを入れていくとさらに良し。屋根のない展望台からは横も上もぜーんぶ見渡すことができる。夕時に向けて刻々と変化する空の表情を、温かい1杯で体をぬくめながら見つめていたい。
湯湾岳展望台から眺める焼内湾の夕陽。ただいまのところ、秋晴れの日は連日ショーを開催しております。
--注意事項--
湯湾岳展望台にはトイレがありますが、台風の影響で水道設備が壊れてしまったのか、先日訪れた時は悲惨な状況でした。とてもじゃないが使える状態ではなかったです。地上でトイレを済ませて登るのが無難です。いざという時は「野」で。
--追伸--
その後、修理されてトイレは治ってます。