11/11「荒波の潜水夫たち」
11月に入った頃からぐずついた天気が続いている。シトシトと雨が降ったり降ったり降らなかったり・・また降ったり。空気も少しジメジメしている。秋雨シーズン到来だろうか。こう雨が続くと10月の空がとても懐かしく感じられる。10月は、とてもよく晴れた月だった。少しばかりの雨も降ったが天候はおおむね晴れ。青い空が惜しみなく広がり、心地よい風とともにすがすがしい日々が流れた。
天気も良く気温もおだやかな10月は、奄美でもっとも過ごしやすい月かもしれない。私も空の色と風に誘われて海や山へと足を運んだ。人影もまばらになった秋の海は、夏のにぎやかな陽気とはまた違った魅力がある。やわらかい陽射しのもとで、冷たい砂浜を歩くのはなかなかに乙なものだ。貝殻を眺めながら歩いていると思わぬ拾い物があって嬉しい気持ちになる。この前は形がきれいに残ったブンブクの亡骸を拾った。感動。その日はそれだけでとてもいい1日を過ごした気持ちになった。
また、涼しくなったおかげで山もだいぶ過ごしやすくなった。平野部よりずっと冷たい空気は肌に心地よく、何より蚊が少なくなったことが嬉しい。そして秋は実りの季節。ギャーギャーわめきながら忙しく動きまわるルリカケスは、目の前でシイの実をくわえて運んでいく。姿は見えなくとも森の奥からはウ−ウ−グルルとカラスバトのうなりが聞こえ、時おりアオバトが尺八を吹く。太陽が沈む頃には谷の方からオオトラツグミの声も響き、夕焼けが消える頃にはコノハズクが鳴き始める。自分以外に人の気配がしない場所で、静かに耳を澄ませ鳥の声に聞き入る。その日はそれだけでとても贅沢な1日を過ごした気持ちになった。
そんな10月のある日。朝の贅沢なひと時を過ごしにホノホシ海岸を訪れた。荒波が打ち寄せ、玉石が輝き、朝日が昇る素敵な時間。そんな素敵な時間なのに、あたりには誰もいない。それもまた素敵。丸い石ころの上に座って朝の贅沢な時間を過ごす。日の出は素晴らしい。ほんの1時間の間に目の前の世界が激変する。とても濃密な時間だ。そうしてショータイムを楽しんだ後、パンを焼きコーヒーをいれている時だった。朝日に輝く海にカメの頭が見えた気がした。まさか?と思いつつ近くへ走る。海面を注意深く見つめていると、海の中から甲羅が浮かび上がってくる。それも次から次と。ウミガメがいっぱいだ!。なんだか嬉しくなって、朝食もそっちのけで海を見つめ続けた。
岩壁に打ち砕ける波の姿に最初は「こんな荒波の中で・・」と思っていたが、海面でなければ波の影響は受けないようだ。もちろん大波に飲まれれば凄い力だが、波には一定の周期があり大波もあれば小波もある。そしてその周期にあわせるように、カメたちも浮上してくるのだ。波のすき間をぬってプハ−ッと息つぎするウミガメ達。時おりタイミングを間違えてオットットッという時もあったが、荒波の潜水夫たちはホノホシの海を楽しんでるようですらあった。
ホノホシでウミガメに出会った朝。その日はまだ1日が始まったばかりだったが、とても満たされた気持ちになった。今日は貴重な1日になったなと思いつつ家路へとついた。