6/6「森に響く声」
早朝4時。まだ暗い夜の森の中から、闇を通り抜けるように澄んだ声が響いてくる。ピロロロロロロロロロロロロ‥‥。ピロロ、ピロロ。ピロロロロロロロロロロロロ‥‥。アカショウビンの声だ。とても澄んだ美しい音色。間近で聞くと突き刺さるように心に響く。だが、時刻はまだ朝の4時。「おいー、アカショウビン。やーのせいで目が覚めるっちょ」とは次男の話。それぐらい辺りはまだ真っ暗だ。日が登ってくる気配すらまだ感じられない。
我が家の隣には川が流れており、川の横はすぐ山になっている。川向こうの岸はススキによって埋め尽くされ、見るからに足を踏み入れがたい。そこではリュウキュウイノシシの姿をよく見かけるし、春先からずっとアカヒゲのさえずりがにぎやかだ。ここは市内なので、家のまわりはアスファルトとコンクリートで現代的な街並が広がっているが、川ひとつ隔てた向こうには結構な「野生の世界」が存在している。私の最も身近にあるワイルドライフだ。
その川向こうの山には、夏になると必ずアカショウビンがやってくる。今年は4月の終わり頃から声が聞こえはじめ、朝や夕方にその澄んだ歌声を披露していた。とくに梅雨が始まる前には、夕方、あっちの山とこっちの山で交信を交わすように、よく鳴いていた。が、梅雨が始まり雨が降り続くとその声はとんと聞こえなくなった。「あれー、雨を嫌って深い森に移っていったのかな?」と、私はそんな想像をしていた。いったいアカショウビンはどこへ行ってしまったのだろう。
そんなある日のことだった。私はつい夜更かしをしてしまい、時はもう丑三つ時を過ぎていた。気がつくと午前4時。夜明けも近い。体質上「徹夜」なんかできないが、「夜更かし」は得意分野である。しかし、夜更かしすると朝が辛いのも事実。今さら寝るのもなんだしな。今日はこのまま起きてようか。そんなことを考えていた時だった。窓の外からアカショウビンの鳴き声が響いてきたのだ。ピロロロロロロロロロロロロ‥‥
私はすぐさま外へ飛び出し、山へ向かって立った。耳を澄ませていると、目の前の森からアカショウビンの声が響いてくる。「なんだよ、アカショウビンいるじゃん。こんな時間に鳴いてたのかよ」。闇の中で、私はしばらくアカショウビンの声に聞き入った。「なんて心地良い音色なんだ」。
すっかり心がときほぐれた私は、家に入るとそのままベッドにもぐりこみ、ほどなく深い眠りについた。アカショウビンの声を子守唄に・・。