5/14「森潤おう春」
先日、久しぶりに湯湾岳へ登った。冬、登山道を登った時にはカサカサと乾いた感じのする山だったが、今回は一転して春の潤いある山へと衣替えしていた。緑が青々と主張する生き生きとした山に。
足下に目をやると、そこかしこに白い小さな花が咲いている。ふだん奄美の道端でよく見られるリュウキュウコスミレよりも随分小さなこのスミレは、ヤクシマスミレ。屋久島・奄美大島・沖縄本島に自生する可愛いらしい植物だ。
湯湾岳登山道は踏みならされた小道が山頂まで続き、樹間をぬうように歩いていける。その道のかたわらには春を彩る草花たちがにぎやかな宴を開いていた。ヤクシマスミレの側には、もうちょっと背の高いナンゴクホウチャクソウが真っ白い花を付け、ヒメカカラの小さな葉がクネクネと伸び、ミヤビカンアオイのビロード状の葉がひょこひょこと飛び出ている。春の登山道は小さき植物がとても愛らしい。
登山道にいたる前、林道を車で走ればあちらこちらで赤や黄色の実に出会う。そう、木いちごだ。奄美の4月5月は木いちごの季節で、野のあちこちで赤や黄色の実を目にし、口にもする。4月になるとまずリュウキュウバライチゴが粒の細かい真っ赤な実をつけ、4月も終盤になるとリュウキュウイチゴの黄色い実が目立ちはじめる。時には赤い小さな実をつけるナワシロイチゴの姿を見ることもあり、5月を迎えると粒の大きいホウロクイチゴが食べごろだ。それぞれ場所によって成熟にズレがあるが、だいたいこんな感じで実を付ける。林道を歩けば必ずといっていいほど目にするので、見つけたらぜひ奄美の春を味わって欲しい。ただ、奄美では「木いちごの近くにはハブがいる」と言われるので、彼らの存在を忘れないように。植物が美味しい実を付けるのは種を運んでもらいたいからで、主に野鳥がそのお客さんとなる。木いちごを食べに来た鳥を狙ってハブが待っている。そんなことも考えられるので、奄美の先人は「木いちごの近くにはハブがいる」と言って注意を促したのだろう。
そうそう、そんな春に実を付ける木いちご達の中にあって、これから花を付けるイチゴもある。湯湾岳と徳之島の井之川岳山頂付近に生えるアマミフユイチゴだ。アマミフユイチゴはホウロクイチゴの葉をずっと小さくしたような葉を持ち、湯湾岳登山道を歩くとその小さな深緑色の葉をよく見かける。アマミフユイチゴの花の季節は6月なので、その頃はまた登山道がにぎわいを見せるだろう。
さて、5月になり湿気でムシムシする日が続いていたが、昨日、奄美地方はとうとう梅雨入りした。昨日の夕方からちょうど雨も降り出し、今日は朝から耳も痛いほどの集中豪雨。一気に降り注いだ雨に川の水かさも増し、隣の河原では、繁栄をきわめていた背丈3mほどのススキ林が一様になぎたおされていた。物凄い雨だった。
例年、梅雨明けは6月の終わり。毎日こんな日が続くわけではないが、厚い雲に覆われて昼間でも暗い日々が多くなるのは確かだ。シトシトとジメジメ。気持ちも晴れないし、洗濯物も乾かない。人様にはあまり好まれる季節ではないが、ギンギンに晴れわたる夏の青い空を前に、ちょっとひと休み。命の水で、森の栄養補給が始まる。