3/5「激走170km。原付きの旅。〜5〜」
さてさて、いまだ大和村を抜けきれない原付き旅。そろそろ時間が押してきているので、さっさと行こう。
名音を過ぎ峠を下ると、大和村に残る集落はあと二つ。志戸勘(しどかん)と今里(いまざと)だ。集落内にはフクギが並び、ここでも風の強さを感じさせられる。途中、道路のすぐ横でイノシシが飼育されていたので、原付きを止めてちょっと眺めた。体が小ぶりなリュウキュウイノシシは結構愛らしい。今里は大きな漁港がある場所で、その昔はカツオ漁で栄えたと言う。沖に浮かぶ立神が見守るシマだ。
今里集落を通り過ぎると、いよいよ大和村から宇検村へと到る峠越えだ。今回の旅で最も難所と言えるのがここだろう。なにせ傾斜がきつい。原付きフルスロットルでも30kmがやっと。まるで壁のようにそびえる山々を肌に感じながら、「なるほど」とも思う。「宇検村が冬の強い北風から守られてるのは、このおかげか」と。
山を登るとさすがにちょっと肌寒い。そして宇検(うけん)は遠い。まだかまだかと思いながら原付きを走らせる。冷えた風は体を硬直させ、寒さに耐える時間が続いた。そうして峠道はようやく下りに入り、やっとのことで宇検に到着。「ふー、疲れたぁ」。焼内湾(やけうちわん)を眺め、しばしボーッとする。
しかし旅はまだまだまだまだ。今度はこの焼内湾をグルーッと回って、対岸の屋鈍(やどん)に向かわなければならない。宇検から屋鈍へ。宇検村一周の旅である。と、その前に宇検のさらに奥にある「船越海岸」へと行ってみる。船越海岸は宇検村の中では唯一外海に面した海岸で、サンゴ礁に囲まれたこじんまりとした海岸。ここにはマイクロアトールという小さな環礁(ドーナツ状に育ったサンゴ礁)があるそうだが、満潮だったため残念ながら確認できなかった。奥座敷の静かなところなので、次は夏にでも一日かけて過ごしたいなと思いつつ後にした。
再び宇検に戻り時計を確認すると、時刻はもう3時半だ。よし、焼内湾をグルーッと一気に走り切るぞ!と気合いを入れて出発する。帰りを考えると気持ちが焦る。太陽はもうだいぶ傾き、気温も下がってきた。原付きで走ると気温の変化を強く感じる。「もっと寒さ対策をしてくるんだった」と後悔しつつ走る。
入江の深い宇検村は、その大きな入江「焼内湾」に沿って集落が発達した所。焼内湾を巡るように敷かれた海岸線を走ると、小さな入江ごとに集落が次々とあらわれる。まるで湖のように静かな湾内では養殖業が盛んで、あちらこちらで養殖のブイを見かける。
そうこうしながら走っていると焼内湾の一番奥、湯湾(ゆわん)にたどりついた。湯湾からは湯湾岳への登山口もあり、この時間帯ならちょうど夕焼けにいい頃。湯湾岳展望台から夕焼けを眺めて、そのまま住用村に向かい国道で帰るという手もある。寒さも増してきたし、誘惑の悪魔が頭の中を飛び回った。湯湾集落内の信号で青を待つこと、約1分。左へ行けば住用、右へ行けば屋鈍。私は、悩みに悩んで迷いに迷った。そしてシグナルブルー。私は、誘惑を断ち切り右へ曲がった。さ、折り返しだ。再び焼内湾岸線を、今度は奄美の端に向かってレッツゴー!
日がどんどん傾く中、染まりゆく海面を眺めつつ、太陽に向かってひた走る私と原付き。途中、名柄の商店で缶コーヒーを飲み、冷えきった体を癒す。こんな時、ポケットにしのばせておいたチョコレートが役に立つ。ありがたいことだ。このひと粒でだいぶ生き返る。家路に着く小学生と目が会い、挨拶を交わす。ジャケットを襟元まで締め上げ、再びハンドルを握る。「よーし!」と走りはじめた途端、また急ブレーキ!。またまた寄り道病が始まった。
「川に何かいる・・」。そう私は、名柄の川にスイスイと泳ぐ鳥の姿を見つけたのだ。「何の鳥かな?」とウキウキ気分で横道に入る。近づいてみると、ふむふむ「カモっぽいぞ」。こんな時は野鳥ブック。バックから図鑑『奄美の野鳥』を取り出して調べる。くちばしが黄色で、色はこげ茶と白黒で・・、マガモだな。なるほど君達は冬鳥か。ということは、暖かさを求めて島にやってきたんだな。ま、ゆっくりしてってくれ。
マガモにグワッグワッと別れを告げ、原付きは再び走りだした。つづく・・