2/28「激走170km。原付きの旅。〜4〜」

 嶺山公園、磯平パークと過ぎ、そのまま峠道を下っていくと、戸円(とえん)集落に着く。戸円とその隣の名音(なおん)。ここは私が幼少期を過ごした場所だ。

 戸円と名音の間には「徳浜の断崖」という断崖絶壁がある。切り立った断崖を突き抜くようにトンネルが走り、その細い小さなトンネルを押しつぶさんばかりに断崖がそびえる。断崖の前に立つと岩肌がおおいかぶさってくるような感覚に襲われ、クラクラと平衡感覚を失いそうになる。思えば幼少期、このトンネルは私達の生活の一部だった。

 幼い頃、私の家族は名音に住んでいた。まだ学校に入る前だったので、両親が仕事にいってる間は面倒を見てくれる人が必要で、そんな時、戸円に住んでいる方が子守を引き受けてくれた。だから私達兄弟は毎日、名音と戸円の間をトンネルを通って行き来した。細かい部分は憶えてないが、私は歩いて弟はベビーカーでこのトンネルを通った。戸円と名音を結ぶ道のりの中で、このトンネルは一つのビッグイベントだった。そんな記憶が残っている。昔はもっと自然のままで、そっちの方が好きではあったのだが、安全のためなら仕方がないか。今はトンネルのまわりに色々と装備が増え、昔と変わらないのはトンネル本体だけだ。

 そんなことを考えながらトンネルを通り抜けた。オレンジのライトが真ん中に1列だけ並ぶ、そんな昔ながらのトンネルを。

 トンネルを抜けると名音である。名音からその隣の志戸勘(しどかん)へはトンネルを掘っているが、今はまだ完成していない。峠越えで志戸勘へ向かう。峠を登る途中で名音を振り返ると、集落を囲む山の斜面に広がる枯れ木に気付く。戸円もそうなのだが、ここらは風が強いのかそういう種類なのか、山の斜面に落葉樹が多い。常緑の奄美ではちょっと変わった光景なのでいつも目を惹かれる。特にこの時間帯は、落葉樹の幹や枝が斜陽に照らし出されて山肌に浮かび上がって見える。その中にポツリポツリと真っ赤に紅葉したハゼノキがアクセントを加えまた美しい。しばし見とれ大事なことを思い出す。「斜陽?」

 時計を見るともう3時前だった。まだ宇検村にも入っていないというのに・・。焼内湾をぐるーっと回ることを想像し、先の長さにめまいをおぼえた。どうやらのんびりし過ぎたようだ。時間がいよいよ押してきている。私はアクセルをにぎり再び峠道を走りはじめた。つづく・・


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